2014/10/14

1,700億円の夢の行方:シェールオイルとカンボジア

カンボジアの首都(先進国基準で見ると小さな地方都市、というか街)と地方(先進国基準で見ると残念ながら分類先がないレベルの僻地)を行ったり来たりばかりしていると、普段見て触れるニュースが極めてニッチなスーパーローカルネタに偏りがちなので、出来る限り大局高所的なニュースの摂取も心がけるようにしている。

首都プノンペン中心地で奮戦されていた鶏鍋屋さんとか開店したばかりのラーメン屋さんとかたこ焼き屋さんとかが店仕舞いされた(らしい)のは残念だ。

アセアン進出ブームに湧く日系企業・事業家・若者皆様のカンボジア進出ラッシュにまつわる不具合な話も、何とか解決・解消される事を願ってやまない。

※なお、「不具合」といっても「悪いカンボジア人もしくは(日本人から見て)カンボジア在住外国人にダマされて困った」という類の話はほぼ皆無なので、カンボジア側に何か落ち度がある話はたぶん極めて少ない。

でもまあ、これらの香ばしいローカルニッチなニュース素材は、目や耳を塞いでいたとしても骨伝導みたいに脳内に直接配信されるようなスモールワールドに在住しているので、特に能動的に摂取を心がける必要はない。

で、前回ブログのように唐突に「円安ってどうよ」的な話(カンボジアからは遠いように見える話に)思いを馳せてみたりするわけだが、そんなモードの昨今、個人的に強く興味をそそられたは「シェールオイル」のお話だ。 

ちなみにまた「カンボジアから遠い話」のように感じられるかもしれない。 
確かにシェールオイル・ガス自体はカンボジアとは遠い。 けれど、ニュースになった話の原因構造自体は極めて近い(気がする)。 
筆者は資源系に関する知識(と興味)はほとんど持ち合わせていないので、興味をもったのはその構造の部分だ。
(だから本稿のラベルは「カンボジア時事」にしておく)


日本の5大総合商社の一角、住友商事が、9月末にシェールオイル開発で通算2,400億円の巨額損失をたたき出す事を公表した。

2015年3月期の予想利益が2,500億円だったそうだから、ほぼそれと同額の損失をはき出す事を宣言した格好だ。 
(懐かしい会計士的な発想によれば「ということはその翌期にはき出す損失もまだ残しているんだなきっと。。」とか邪推してしまったりもする。)

「投資決定は極めて慎重に進めたつもりだが、見通しが甘かった」というような反省の弁を社長が述べたとのこと。
4つの事業で大きく損失を計上するらしいが、そのうち資源開発関係は3つ、最も大きいのが米国テキサス州でのシェールオイル開発で、その損失総額は1,700億円、、らしい。


1,700億円というと、いまカンボジアでイケイケ業界筆頭といわれるマイクロファイナンス機関(≒消費者金融機関)全42行の貸出しローン金額を全部足した合計値とほぼ同額だ。
20143月末残高合計で1,516.36百万米ドル、1ドル≒110円換算で約1,670億円Cambodia Microfinance Associationのホームページより)


ちなみに、シェールオイルとは、頁岩(けつがん=シェール)という岩盤に閉じ込められた形で残っている石油の事で、シェールガスはその頁岩から天然ガスを取り出したもの、らしい。 
どちらも以前は取り出すことすら難しかったが、最近になって採掘する方法が編み出され、石油に代わる新エネルギーとして期待が高まっている、らしい。

先述の通り、そのシェール云々自体については筆者も全く知見がないし、カンボジアからも遠い話に感じられるが、「なんでそんなに大きな損失を出してしまったのか」についてのコメント各種に、不思議な「既視感」を感じてしまう。


「(後発ゆえに)なかなか資源メジャーにパートナーとして相手にされない・・後発商社であり、世界の資源大手に比べ情報が少なかった」(住友商事 中村社長)

「住商は大手商社の中で資源開発は後発組。このため関係者の間では”大手に追いつこうと焦ったのでは”との指摘が出ている」(経済記事)

「(非在来型のシェール鉱区を開発案件として)買った時期がブームの真っ最中で、取得コストが高かった面もあるのでは」(経済記事)

「資源ビジネス参入の遅れが、構造改革の遅れにつながった」(関係者)



 「何やら皆もやってて儲かりそうだ、早く合流しないと乗り遅れる」
・・という高揚感とアセりが相互増幅し、且つそういうモードに乗じてすり寄って来る、自薦・他薦問いません系の有象無象の”識者”の甘言にも揺すぶられつつ、結果として由緒正しい大企業なら「通常なら絶対しない」ような意思決定の連続が積み重なって1,700億円・・。
ウン億円単位でセシめた”識者”が、どこかカリブ海のリゾートあたりでニンマリとドンペリでも空けていたとしても不思議ではない(だろうか?)。


似たような話はおそらく古今東西、枚挙にいとまがない。
人間の脳が石器時代のそれから大して進化していない事を考えると、似たような状況の中で、似たような立場のヒト科霊長類が下す意思決定は、ほぼ似たようなものにしかなりようがないからだ。 
結果として生じるインパクトだけが、産業革命以降の人間社会の進化(人間の進化ではない)のおかげで巨大(金額換算で巨額)になっているだけだ。


大手総合商社がテキサスを舞台に踊ったシェールオイルの夢物語は、そこで働く全従業員(連結グループベースで約72,000人)の1年分の汗の結晶(今季の予想利益)を吹き飛ばした。 
そこまで壮大な夢物語にはなかなかお目にかかれないないとは思うが、それと相似形をなす小型バージョンがいくつか潜伏していたとしても不思議ではない今のカンボジア。

1,700億円という金額がちょうど符号していたから例にあげたマイクロファイナンスinカンボジアに限らず、それが飲食だろうが不動産だろうがXXXXだろうが、有象無象の人間達が似たような状況で業を営んでいる以上、似たような話はきっとどこかでもう芽吹いている。

似たような状況に陥らない事が極めて難しい事は、大なり小なり連綿とヒトの歴史が証明している。 そういう状況に陥らない唯一の予防策は、そういう状況になっている頃のタイミングを上手く見計らってその状況に近寄らない事、くらいだろう。 
では、そういう状況になっている頃とはいつなのか、、それはそれがみんなの話題に上る頃(今でしょ?、、古いw)、、という事だろう、たぶん。

酔っぱらいの禅問答みたいになりかけている(もうなっている)ので今日はここでお開きとさせて頂きます。。 なんかこういう話じゃなくて書く話があった気がするが、まあ良いか。


PS
資源の「埋蔵量」とは「技術的かつ採算的に採掘可能な資源量」。

「存在はしているけど採掘したらおカネがかかりすぎて元が取れない」、つまり採算的に採掘不可能な資源は「埋蔵量」としてカウントされない。

だから、技術が進歩して(技術の値段が安くなって)採掘して生産して元が取れるようになったら、それまで「埋蔵量」に含まれていなかった資源が「埋蔵量」になる。つまり「埋蔵量」は増えるのだ。

ちなみに「埋蔵量」としてはカウントできない例として「海水から採取できる金」があるらしい。 多額のおカネを投じても膨大な量の海水からチョットしか採れないから誰もやらない(つまり埋蔵量とは言えない)という類。

更にちなみにアメリカは、ここ数年のシェール革命のおかげで、自前の「埋蔵量」が莫大に増えたそうだ。 例えば先述の巨額な損切り敢行にいたった大手総合商社のここ数年間の奮闘も、きっと覇権国アメリカの国力増強に多いに貢献している事だろう。

 ・・という事らしい。
今回の件で関連情報を眺めていてとても勉強になった。地球はどうやらまだまだいけるようだ & やっぱり米ドル万歳♩


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