(本国から見て)海外に着々と店舗網を気付いている在外北朝鮮レストラン(通称「北レス」、前回ブログ参照)。
カンボジアだけではなく、ベトナム、タイ(過去に閉店、再オープンはしてない・・はず?)、ミャンマー、インドネシア、マレーシア、ラオス、モンゴル、バングラデッシュ、ネパール、さらには中東のアラブ首長国連邦(ドバイ)にまで、新興国の匂い漂う各所がその主な所在地だ。
全店舗数は60店前後、と言われ(うち、中国には40店舗以上あるという話も),ヨーロッパではオランダに2012年初頭にオープンしたのが同年9月には廃業したとのニュースが日経新聞に報道されたこともある。 90年代にはオーストリア(ウィーン)にもあった、らしい。
北レスが設置される海外拠点の最重要必要条件は、当然ながら「本国(北朝鮮)に海外送金ができること」である。
外貨獲得を最大の目的(の1つ)として美貌のエリートご令嬢達をわざわざ送り込む先だから、日々の営業で稼いだ外貨を本国(北朝鮮)に支障なく送金できる所である事が最低条件になるのは当然だ。
しかしこれが、彼の国にとっては簡単な話ではない。
例えばあなたが、日本の銀行(A銀行)にドル預金を持っていたとして、そこからカンボジアの銀行(B銀行)の友人口座に100ドル送金した場合、実際にA銀行からB銀行に100ドルが運ばれるわけではない。
そもそも日本の銀行の店舗に、十分なドル札が用意されているケース自体が稀である。 ちなみに、だから日本の銀行の店舗では通常、一部の特定店舗を除き、ドルの現金引き出しはできない。
では、あなたのA銀行ドル預金のドルは、実際はどこにあるのだろう。
答えは、ドルを実際に大量に持っているアメリカの銀行(C銀行)だ。 A銀行はC銀行と契約して、C銀行の中に自行のドル預金を預かってもらっている。 B銀行も同様で、同じC銀行の中に自行のドル預金口座がある。
A銀行は、C銀行に対して、B銀行口座に100ドル振り替えてもらうよう依頼をする。
C銀行は、自行内のA銀行口座からB銀行口座に100ドルを振り返る。
それを確認したB銀行は、その送金先友人口座に100ドルを加算する。
C銀行は、自行内のA銀行口座からB銀行口座に100ドルを振り返る。
それを確認したB銀行は、その送金先友人口座に100ドルを加算する。
A銀行(in日本)
・B銀行への100ドル振替依頼(to C銀行)
↓
C銀行(in アメリカ)
・A口座→B口座へ100ドル振替
↓
B銀行(inカンボジア)
(C銀行の振替確認後)送金先の友人口座に100ドル加算
「日本からカンボジアにドルを送る」と言っても、実際にはドルは最初からアメリカにあって、実はどこにも動いていないのである。
このC銀行の役割をする銀行を「コルレス銀行 (Correspondent Bank)」と言う。 外貨送金にあたっての、その外貨(通貨)の中継地点を担う銀行だ。
コルレス銀行は、その役割上、対象となる通貨を大量に流通できないといけないので、その対象通貨を発行している国の銀行(≒その通貨をメインに取り扱っている銀行)が担うケースがほとんどである。
米ドルの場合、当然アメリカの主要銀行がそれを担う(シティバンク、JPモルガン・チェースなど)。
ちなみにユーロの主なコルレス銀行はドイツ銀行、ポンドは香港上海銀行。 日本円は三菱東京UFJ銀行(旧東京銀行)がほぼ独占している。
このコルレス銀行は、その対象通貨の取扱量が大きいからその役割を担えるわけであって、各国の銀行は海外の銀行とコルレス口座をお互いに開設しあって、その口座を用いて資金を振り替えることによって日々の送金決済を行っている。
この役割は、例えば日本国内の決済であれば、日本銀行(中央銀行)が担うものである。
内国為替でいう中央銀行の役割を担う組織が、外国為替の場合は存在しないため、銀行間のコルレス口座がその役割を担っているということになる。
当然、先ほどの例でいうと、日本のA銀行からカンボジアのB銀行への送金は、送金する通貨が米ドルであるためアメリカのC銀行がコルレス銀行となっている。
その送金自体はアメリカには一切関係ないため、アメリカの国としての意向とは一切関係なしに、C銀行はコルレス口座の振替(A→Bへの送金)を処理する義務がある。
これ(コルレス口座の治外法権)は国際金融の基礎をなすものの1つで、国家権力といえども一切不可侵な領域、、だった、以前は。
しかし、2001年9月11日の同時多発テロ以降、テロ資金の追跡と壊滅を最優先事項に掲げたアメリカで成立した愛国者法(The Patriot Act)によって、アメリカ政府は不正使用されている(疑いがある)コルレス口座に介入する術を得た。
世界の基軸通貨である米ドルのコルレス銀行は、基本全てアメリカの銀行だ。
アメリカ政府は自国アメリカの銀行に対し、「コルレス口座を開設・維持・管理・運営することを禁じる」と命じるだけで、結果的に世界中のドル預金を差し押さえることができる。
みな、自分が自国に持ってると思っているドル預金口座は、実際はアメリカにあるコルレス銀行内にあるからだ。
先ほどの例でいうと、アメリカはA銀行にもB銀行にも強制力は直接及ばないが、実際にドル預金を預かっているC銀行をおさえこむことで、ドル預金を動けなくする事ができるわけだ。
北朝鮮建国の父である元祖「偉大なる首領様」故・金日成(キム・イルソン)の長男・金正男(キン・ジョンナム)も居住していたと言われる中国の特別行政区マカオを拠点とする、中堅金融機関バンコ・デルタ・アジア(BDA)が、2005年に北朝鮮口座の凍結した、とのニュースが報道された。
これはアメリカが同年9月、BDAが自行の口座を通して北朝鮮の不正金融行為に自発的に関与しているとし、米系金融機関にBDAとの取引禁止を通達、コルレス取引を実質的に不可能にした結果だ。
BDAに預けていたドル預金を、北朝鮮関係以外も含む口座保有者が自由に動かせなくなってしまったのである。
・・・話が北レスからずいぶん逸れてしまった感もある、、が、存在理由の根幹をなす一部分である、ということでご容赦を。 次で最後しめます(オチはないかも)。
注:
写真は全て、筆者が過去プノンペンの北レスにて撮影したものですが・・(前回ブログの注書きと以下同文です。)
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