2014/03/01

北の漁場のカンボジア船:なぜカンボジア船籍が日本近海で火災・座礁するのか

昨今の日系企業によるアジア進出ブームのおかげで、「カンボジア」という国名も各種ニュース報道にだいぶ前向きな話で名前があがるようになってきた。

とはいえ、果敢な日系企業のカンボジア進出チャレンジ話はまだチラホラ出て来る程度で、むしろ定期的に「カンボジア」の名前がニュースに出て来るのは、火災や座礁で日本に迷惑をかけ続ける「船」の話の方だろう。

日本近海、主に北の海で、しょっちゅう船上火災や座礁などを引き起こし、各県の海上保安部にご迷惑をおかけしている貨物船は、たいがい
「カンボジア船籍」の何某、として各種ニュースに報道される。

昨年3月に青森県で座礁したカンボジア船籍の貨物船(朝日新聞Digitalより)。
放置されたまま丸1年が経過。海流で南に500m程移動したとか。

多くの方が既にご存知(もしくはお察し)の通り、実際に約4,000km彼方のカンボジアから貨物船が遠洋はるばるやってきて、日本の海で力尽きて(座礁)もしくは燃え尽きて(火災)しまってるわけではない。

そもそも申し訳程度にタイ湾に接した部分(海岸線約440km)でしか海との接点のないカンボジアに、遠洋航海のスペックなど蓄積されるわけがない。
・ちなみに島国日本の海岸線は約30,000km(世界6位)

カンボジア的には、浅瀬な近海(海岸からすぐそこ)でラクにとれるエビ・イカ・カニを胡椒で炒めて十分美味しいシーフードを堪能しているだけで、当面のところ海との付き合いは十分なのである。
・当然、気前良い先進国が海辺に自腹で立派な港をガツンと
 作り込んでくれる分にはやぶさかではない。

日本にご迷惑をおかけしている「カンボジア船籍」の船は、「船籍」がカンボジアであるだけで、実際の船主・船員ともに全くの「外国人」である。
※カンボジアから見て「外国」(以下同じ)

人間(自然人)や会社(法人)と同じく、船にも法律上の「国籍」があり、それを「船籍」という。

船に「船籍」を与える要件は国によって異なる。 
その船が自国で製造された事だったり、所有者が自国民である事、船員が自国民である事・・、etcなどのルールがあって、要件(および管理・監督)が厳しい国と緩い国がある。 当然、日本は厳しいし、カンボジアは緩い。

実際の所有者の「国籍」と「船籍」が異なる船を、「便宜置籍船(べんぎちせきせん)」と言い、そういう船に船籍を与えることができる国を「便宜置籍船国」と言う。

「便宜置籍船国」は、緩い要件や税金メリットをこしらえて、外国船を積極的に誘致する。 外国企業を誘致するのと動機の構造は一緒である。

つまり日本近海を騒がす「カンボジア船籍の貨物船」とは、形式上の船主(船の所有者)はカンボジア人だが、そのカンボジア人は船に乗っておらず(もしくは乗った事もない、もしくは見た事もない)、実質上の船の支配者や乗組員は外国人である船、ということだ。
・そのカンボジア人は船主の名義貸しで何らか見返りをもらっている
 、、かもしれない。

同様な便宜置籍船国として有名なのはパナマで、一時期は世界の船の
20%くらいはパナマ船籍の船だった事もあるはずだ(記憶違いだったらすみません)。

ちなみに日本船籍の船だと、一定の法定職員(海技免許など持ってる技術系スタッフ等)は日本人乗組員でなければならず、人件費的に海運コストとしては全く割りに合わない、、から日本の貨物船もパナマ船籍にしている、という話が多かった(これも昔の記憶ベース、間違いだったらすみません)。

カンボジアも便宜置籍船国として、他国に比べて緩い船籍取得基準(乗組員の国籍・資格制限がない等)を提供し、また国際ルール上義務づけられている外国船舶監督官(PSC)による船舶検査もおそらくは緩い、はずだ。 
よく船上火災や座礁が起こる、ということは、船の整備状況が劣悪であることの裏返しである。 基準も検査も緩ければ、整備不良の船となり、至る所で事故を起こす。

国際基準を満たさない整備状況で航海する船の問題は、サブ・スタンダード船問題と言われ、船舶事故の大きな原因の1つとして海運業界では取り沙汰されている、、らしい。
(ここはカンボジアとは関係ないので深入りしない)


日本では水産庁によるロシア船籍漁船の入港規制が厳しくなり、かの国の勇猛な海の男達は、なんとか美味しい日本の「北の漁場」にラクに入場する為のあの手この手を考えざるを得なくなった。

カンボジア船籍の入港数や、主に北の海での迷惑事の案件数が急激に増えた2001年以降と、タイミング的に符号する、という説もある。
カンボジアの港町でうごめく活動されている外国人に、かの国の方々(と思しき方々)が妙に多い気がするのが、本件と関係あるのかどうかは定かではない。

日本では、おそらく報道上のルールか何かで、悪さをしたヒト(自然人、法人、船、etc)の国籍を明示する事になっているから、「XX国籍の男(女)」とか「XX国の企業」とか「XX船籍の貨物船」とかがニュース上で必ずコメントされるが、日本が国としてその国籍(船籍)が置かれている国に実際に文句を言うまでには至らない。 

そのヒトがその国籍の国と実際どれくらい関係があるかわからないし、そもそも日本はそういう細かい事を「外交上のツールにしよう」などという狭い了見を持たない「大人の成熟国」だからだ。

一方、日本ほど大人に成りきれていない他国だと、それなりに問題になったりもする。

カンボジア船籍の漁船がヨーロッパの国際水域で違法に漁業をしていたのが発覚した時のこと;
欧州委員会:
 「悪さするカンボジアの水産物は輸入禁止する!」(威嚇)。
カンボジア:
 「いやそれは韓国の船ですから、悪いのは韓国でしょ!」(反論)。
韓国 :
 「国際ルールを遵守するのは船主の義務!」(??)。 

韓国がいう「船主」とは形式上(名義上)の所有者であるカンボジア人。 そもそも船に乗ってもいない、どころかその船がどこで何してるかすら、きっと知らない人のはずだ。

ただの名義人であるカンボジア人に、遠いヨーロッパ海上でのルール遵守責任をムチャ振りする韓国もさすがだが、カンボジア人も「名義を貸すって事には、こういうリスクも伴うのだよ」という事を学ぶべき、とも思えばいい教訓にもなる事件か。

ともあれ日本では、そんな国際紛争的な香りもする大事っぽい話には到底いたらず、今まで通り「北の漁場で『カンボジア船籍』の船がやらかしました」という報道が淡々と流され、それを目にした(耳にした)日本人は「カンボジアから悪い船が来てるのか。。」と一瞬眉をしかめ、すぐまた忘れ去ってくれるだろう。



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