2014/12/24

2大国家プロジェクトの「終わりの始まり」 in カンボジア


クリスマスからも年末からもすっかりガラパゴス感(隔離感、断絶感、etc)に満ちあふれたカンボジア地方拠点バッタンバン。 

首都プノンペンであれば(かつ在住外国人社会であればなお)それなりにそれっぽさを感じられるような気もするが、その気配すら全くと言っていいほど感じさせない我らが農業拠点。
まあ邪念にとらわれず事業に勤しむにはいい環境である。 いや、そう自分に言い聞かせているだけである。

そんな中、年末イベント第1弾のクリスマスが迫った(事がカレンダーの日付だけで認識できる)バッタンバンで、ちょっと気になる現地ニュースが目に入ったので今日はその話。

ほろ酔い状況で書き始めて前振りだけで力(と時間が)尽きてしまった前回ブログとは無関係なお話で恐縮です(あの続きは書く気あるのだろうか自分。。)。

まあそれはさておき、気になったニュースというのは、カンボジアで数年前から始まっていた有名大型国家プロジェクト2件から主要外資企業がほぼ同時に手を引いたお話である。

ほぼ同時期にリリースされたのは偶然なのか別理由があるのか、勘ぐり始めるとキリがないが、表面的な情報をなぞるだけでもかなり似たような構造要因を持つ話に見えるので、拙稿で恐縮だが取り上げてみたい。

まずその2つのお話の概要を(私見を交えて)以下;

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シンガポール上場デベロッパーHLH社が、プノンペン中心地北寄りに位置するボンコック湖埋立地開発エリア1.3ヘクタールの購入契約を撤回した(20141220日現地紙プノンペンポスト)。

HLH社にこの埋立地を切り売りしようと画策していたのは、某カンボジア上院議員が会長を勤める現地企業Shukaku (何故か日本語の「収獲」を社名にしたとか。。親日?w)
そのShukakuが、カンボジア政府から100ヘクタールの埋め立て用地(というか湖)の99年間に及ぶ長期賃借権を授与された事を受け、せっせと湖の埋め立てを開始したのは2007年。

人気フリーマガジン「クロマー」についているプノンペン地図。中央左よりの大きな緑のスペースがその埋め立て地。



この長期賃借権(Long term leasing)は、外国人に対して政府が土地の使用営業権を認める経済的土地営業権(Economic Land Concession)とヒモ付き(とうか一体)となっていて、Shukakuとしてはこの埋め立て地を優良外資デベロッパーに切り売りしつつ、彼等に外資ならではの最先端開発を進めてもらって、この埋立地にプノンペンのハブ的な中心地となるビジネス・商業施設を作り上げる腹づもりなのだ、と思われる。
(各種リリース情報に基づく筆者の妄想)

その記念すべき最初の切り売りとなるはずだった1,490万米ドル(18億円)の土地売買契約をあっさり白紙撤回したHLH社いわく、

「取引実施の前に詳細なデューデリジェンス(投資対象の価値やリスクを評価するための調査、いわゆるデューデリ)が必要であった。」

「実質的な強制退去に対し、今も抵抗・反対運動を続けている約2万人の元・現住民達との和解が、成立の見通しすら立っていない。」

「手付けで払った146万米ドル(約1.8億円)は回収した。」

デューデリとは何かに投資するにあたっての収益性やリスクを評価する手続きだから、それを行った結果手を引いたという事は、しっかり儲かるかどうかを多方面から秤にかけた結果、やるべきでないプロジェクトであるという判断に至ったのであろう。

住民の反対運動に対しては2011年、事態を重く見たフンセン首相御自らお達しで、Shukakuにリース権を渡した埋立地のうち12.44ヘクタールを住民に割り当てるよう号令を発したが、それっぽっちじゃ焼け石に水、と言わんばかりに土地権利証を求める元・現住民がいまだ役所に長い列をなしている。


2.
オーストラリア上場の物流大手Toll Group(以下T)は、カンボジア国営鉄道プロジェクトToll Royal Railway(以下TRR) の持分55%を、共同出資パートナーである現地財閥Royal Groupに売り渡した。(20141222日現地紙プノンペンポスト)

カンボジア政府がTRRに対し、30年間に及ぶカンボジア鉄道網の営業権(Concession)を授与したのは2009年。

TRR
は、アジア開発銀行とオーストラリア政府による総額14,300万ドル(172億円)におよぶカンボジア鉄道復旧プロジェクトの一環である。

このプロジェクトが無事完了したあかつきには、首都プノンペンとカンボジア唯一の深海港を擁するプレハシアヌークを結ぶ254Km、及び首都プノンペンとタイ国境の街ポイペトを結ぶ388Kmの鉄道が見事復活を遂げる、ことになっている。

現地紙プノンペンポスト(Web版)の当記事より拝借した写真



この壮大なプロジェクトの担う第一人者的な立ち位置から早々と“エグジット(売却・手仕舞い)”したT社いわく、

「しばらくやってみたが、思ったより儲からないことがわかった(generating lower-than-expected returns over a period of time)」。

「この2年間、(プロである我々以外の)現地業者による1歩進んで2歩下がるような(setbacks and delays)遅々とした線路復旧作業が、効率的な作業進捗を妨げた事実は否めない」。

また、アジア開発銀行の「内部監査(Internal Audit)」の結果、このプロジェクトによって移住を余儀なくされる4,000世帯以上の住民との間の再定住先や補償の話が全くまとまっていないことが判明した。この事実もT社による早々の離脱決意をうながしたようだ。 

・・・とまあ、以上がこの2つの国家プロジェクトの「終わりの始まり」に関する、筆者の愚考も多少交えた概要だが、筆者が思うにこの類のお話にはいつもいくつかの共通項がある。 

(1)そもそも壮大すぎる物語である。
 カンボジアの政府・民間、上から下までの諸々レベル(意識、経験、etc)などを総合的に勘案し、かつ物語の規模をしっかり定量化して眺めてみると、美しく壮大なスペクタクルを超えてタダの荒唐無稽な妄想話に聞こえてしまう類。

(2)少しかじってみると、Sustainableではない(持続可能でない、要は儲からない)話であることが分かる。
 プロジェクトの規模にもよるが、だいたい最初の出だし期間のうちに、1歩進んで2歩下がる諸々の進捗(というか停滞・後退)を目の当たりにし、当初に立てた美しい事業計画は根底から覆され、予定していた期間と費用を数倍、予定していた収益を数分の一にせざるを得ない事に気がつく。

(3)政府は結局、グズる国民を制御できない。
 カンボジア事情通が(1)を感じ、聡明なプロジェクトオーナーが(2)に気付く大きな要因の1つ。 辞令1枚で1週間後には人を軽く地方に飛ばせる日本の銀行人事部以上に強大な人事権を自国民に対して持っている(強制退去・移住も何でもありな)中国共産党と、さもそれと同等の強さを持っているように見せる&語るのが得意なカンボジア人民党の歴然とした違い。 自己主張は控えめでも、こと自分の権利についてとなるとかなり頑固で譲らないカンボジアの民を、政府が何とかしてくれる事が話の前提になっているプロジェクトはだいたい頓挫 雲行きが怪しくなる。


今回のお話の主役である両先進国(シンガポールとオーストラリア)の上場企業は、おそらくは(1)政府系プロジェクトである事で信頼補完された美しく壮大なストーリーに乗ってみて、(2)ちょっとやってみたら持続的運営はとても不可能な与太話である事に気付いて、(3)政府が意外とリキないことも早々と察し、さすがの判断力で被害が小さいうちにさっさと「損切り」を決めた(のだと思う)。

ここでさっくり損切りできるのが、さすが拠点はアジア・オセアニアでも意識はすっかり欧米系な両国上場企業。 
同じ先進国でも損切りできないウェットな生粋アジア系の方々もおそらくいて、その方々はカンボジアにとってずっと優良顧客であり続けるのだろう。 



・・・と、こんな時事ネタのフリをした妄想話を、クリスマス&年末感が皆無なバッタンバンで書いています、、と書いた冒頭に少し戻って少し訂正させて頂くと、書いているのはバッタンバンではあるが、現在進行形でプノンペンに戻っている最中(というか車中)である。 
位置情報をより正確に訂正すると、バッタンバンから隣州ポーサットに差し掛かってしまっている(今このくだりの執筆時点)w

クリスマス&年末感を感じるために 月末&年末の業務を片付けにいくプノンペンへの道すがら、何となくお詫びと訂正で本稿の締めとさせて頂きます。

確か今夜はワイン会クリパ♩ 御世話になっている方々へのご挨拶会w

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