「法律は、大きなハエが通り抜け、小さなハエがつかまる蜘蛛の巣である」(フランスの小説家オノレ・ド・バルザック)
・・という名言系ツイートをふと目にしたことから、連鎖的に思い出した税金の不思議な話をつらつらと書いてしまった前回ブログ。
先週から日本に1週間ちょっとの出張に来ているが、ここにいるとカンボジアでは気にならないニュースが嫌でも目につく。
日経新聞(2014年7月27日)によると、2015年1月から相続税の課税が強化される(相続税の非課税枠が縮小される)らしい。
新聞によると、例えば夫が死亡し妻と2人の子が相続する場合、夫の保有資産が4800万円を超すと課税されるようになる。 これまでは8000万円超にならないと課税されなかったらしい。
8000万円を超える資産というと一般人にはかなり遠い気がするが、4800万円というと、ローン返済し終わったマイホームと退職金などの貯金を持ったままの倹約家なご家族であれば、危うくうっかり超えてしまいそうな金額だ。
実際、日本全世帯(約5300万世帯)の11%くらいの世帯が、新たに課税対象となってしまいそう、とのこと。
一方、前回ご紹介した日本を代表する大きなハエ優等生大企業に対しては、気持ちよく通れるように、タイムリーに巣の網目の大きさまで変えてくれる蜘蛛の糸。
この手の話が目にとまるたびに、筆者に直接利害関係はないが、何か腹立たしい記憶として思い出す、一昔前のもっと巨大なハエ達のお話。
※ 忘れない様にまとめておこうと思って書いたら、毎度ながら長くなってしまったので、下段に【読み飛ばし可】として掲載。。。昔話にご興味ある方、ご一読頂ければ幸いです。
大きなハエ達への最恵待遇を目の当たりにしてきた小さなハエ達が、母国日本への納税意欲を持ち続ける事は果たして可能なのか。
(ちなみに納税は意欲でするものではなく、憲法に定められた国民の義務だそうです)
一方、小さいハエには容赦しませんよ、と言わんばかりに、最近は海外にまで糸を張り巡らしはじめた蜘蛛の巣。
5000万円超の所有海外資産ついて税務署に申告が義務付けられた「国外財産調書制度」は、もう昨年末から始まっており、今年の3月が最初の報告期限だったはずだ(違反すると1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。
欧・米・日を中心に34 ヶ国の先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)は、租税情報の国際間自動交換に関するスタンダードを発表し、まず45カ国が2017年までに租税情報の自動交換を行うことになるという。
ちなみに蜘蛛の糸にかからないためには、原理的に以下3つの解決策があるはずだ。
①
大きなハエである(or になる)
② 蜘蛛の糸が届かないくらい遠く(or近くても見えない所)にいる
③
そもそもハエじゃない(or に見えない)
日本から4000Km離れたカンボジアまで、果たして届くか蜘蛛の糸。
そもそも、蜘蛛にとって美味しいエサであるハエにすらなれていない筆者(つまり③のカッコ書きじゃない方)には、全く関係のない話だが。
グローバルな脱税スキームを絡めた国際金融ミステリーをリアルに描き話題となった超人気経済小説で、ずば抜けた国際税務知識とノウハウを持ちながら、厭世的に放浪を続ける元弁護士(主人公)が、莫大な資産を持つ謎の老人に「最高の資産運用方法は何か?」と尋ねられて、
「資産運用しない事、と、税金を払わない事」
と答え、大笑いとともに信を得る、というようなくだりがあった。
大きかろうが小さかろうが、蜘蛛に狙われるハエくらいになると、行き着く先は同じくそのあたりなんだろうか。
・・・なんでこんな話を長く書いたんだったか、よく覚えていないが、これにてこの話題は終了いたします。 週明け、カンボジアに戻ります。
【以下、とある日本昔話(読み飛ばし可)】
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日本のメガバンクといえば、三菱東京UFJ、三井住友、みずほ、りそな、三井住友トラスト、の5大銀行グループを指す(はず)。
その5大銀行グループは2012年3月期決算で、連結最終利益の合計2兆4000億円(前年比36%増)と空前の好業績をたたき出した(三菱東京UFJは単独で国内上場企業の最高益)。
で、前回ご案内した「新聞記事の税金ネタは5月」の法則に従い、2012年5月あたりに日経新聞等で、当時筆者も「えっ?」と目をむく記事や情報が出回り始める。
(日経新聞 2012年5月11日記事抜粋)
「大手銀行が2013年3月期にも相次いで法人税の納付を再開する。
11年3月期に10年ぶりに再開した三菱東京UFJ銀行に続き、今期は三井住友銀行が15年ぶり、りそなホールディングスは18年ぶりに納める見通しだ。みずほフィナンシャルグループも傘下銀行が今期から再開。・・」
平成生まれの方々がとっくに成人し、若々しくもビジネス第一線で大活躍されている今となっては、古い日本昔話かも知れないが、彼等がモノゴコロつく前の90年代前半(筆者はようやくモノゴコロついた頃くらい)、日本の民間金融機関は、どう見てもうまく行きそうもないプロジェクトや、とてもじゃないが返済してもらえそうもない相手に、こぞって超巨額のおカネを貸出し、いわゆる不良債権の山を築き上げた。
その積もりに積もった不良債権の総額は、累計で100兆円を超すとされる。
ケタを間違っているわけでもなければ、いま第一線の彼等がモノゴコロつく前の間隙を縫って日本政府がデノミ(通貨単位の切り下げ)を敢行したわけでもない。
日本の選び抜かれた超エリートが集まる超優良銀行(当時、長期信用銀行と言われた不思議な銀行が3つほどあった)が、浅黒く日に焼けた若造の「ハワイの火山の麓の荒れ地に巨大リゾートを作るんです!」といった夢物語に、数千億円(ケタは間違ってない)のおカネを貸し出したり、そういう銀行群から延べ2兆円を超える融資を受けた「料亭の女将」が数千億円の相場を張ったりしていたのだ。
ようやく最近(去年くらい)から、イケてるIT系ベンチャー企業等がウン億円〜十ウン億円を調達できるようになって「ベンチャー投資業界が活況」と言われ始めた昨今から振り返ると、冗談にも程があるというレベルをはるかに超越したおとぎ話のような本当の話。
その不良債権の処理額(=返してもらう事を諦めて泣き寝入りした損失金額)が、繰越欠損金(=これから稼ぐ利益から相殺して税金不払いにしてもらえる金額)に化け、結果として大手銀行は法人税を納めなくてもいい状態がかなり長く(10年超)続いた。
ちなみに、バブル崩壊の現実が最高潮に可視化された(つぶれるはずがないとされた大手金融機関もいくつか消滅した)1997年から約10年経った2006年3月期の時点で、大手銀行グループの繰越欠損金はまだ13兆円以上あった。
2002年1月に一度底を打った日本経済は、その後2007年10月まで69ヶ月間拡大が続く好景気となり(「いざなみ景気」と言われた)、大手銀行グループはその2006年3月期、過去最高となる計3兆円超の連結最終益をたたき出したが、その時ですら税金は一切支払っていない。
で、ようやく2012年、稼ぎに稼いだ利益の累積が、不良債権処理した繰越損失額に追いついて、やっと大手銀行は税金を国に納められるようになりました、めでたし、めでたし、という話。
前回ご紹介したトヨタも、2009年3月期から5年間、本当に法人税を納めてなかったとすると、2009年〜2012年の3年間(2008年のリーマンショック後、みなが痛みに耐えていた期間)、大手銀行もトヨタも国に一切税金を納めていなかったことになる。
学校で一番の成績優秀者の学費が免除されるような特典、みたいなものだろうか。
しかも更にちなみに、2011年に唐突に税制が改正されて、大企業が繰越損失で相殺できる利益は「利益の額の80%まで」ということになった。
つまり「繰越された赤字があったとしても、黒字が出た場合に黒字を相殺できるのは8割までで、のこり2割の黒字には課税しますよ」というルールになったということ。
その改正ルールの適用は2012年4月以降から。
なぜかものすごくタイミングが良いことに、大手銀行の巨額な累積赤字が全て解消された(=累積赤字を全額フルに税金相殺に使い切った)翌年度からの適用、であった。
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本稿で記載した企業業績、決算数値、年数表記等は、随所のネット情報等からあくまで筆者が「合ってるっぽい」と思ったものを拾ったもので、正確性については保証いたしかねます。
あくまで個人的感想の範囲を超えないものとしてご了承くださいませ。
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