2015/08/02

天才数学者より早かった日本の"最強"安保戦略(※カンボジアとは無関係w)

いつもより長めの東京出張も終盤戦。 今回は本当に日本の酷暑を散々体験させて頂いた。 カンボジアも3、4、5月あたりは確かにかなり暑いが、乾季(から雨期の頭)という事もあって基本カラッとした気候の暑さであり、この日本の高湿度でジトッと重めの暑さに比べればだいぶラクな気がする。 

週明けにはプノンペンに戻る予定だが、あっちはあっちで雨期に入ってもしばらく降らなかった雨が昨日いきなり一気に降り出したらしく、市内はいたる所で大洪水になっている模様。 とりあえずプノンペン自宅が無事である事を祈るのみである。


久しぶりに日本に丸一週間以上いるが、この国にいるといつも感じる「情報が勝手にどんどん脳内に流入してくる感」にもこれまた久しぶりに長く浸かっている。 
この情報の類が、自分で選んだものではなくマスメディアに選別されたものであるのが不快感の元なわけだが、だったらテレビも雑誌も電車の中吊り広告も見なければいいじゃないか、という理屈はごもっとも。 プノンペンでは自宅でテレビをつける事などほぼ皆無だが、なぜ日本にいるとつけてしまうのか。。自分で自分が謎である。

で、まあ上記に関係ないこともないのだが、一週間離れているカンボジアとは少なくとも全く関係ない今日のお話。


2ヶ月ちょっと前の事になるが、高名な米国数学者ジョン・ナッシュ氏がニュージャージー州で交通事故で亡くなった(2015年5月)。 
奥様と同乗されていたタクシーの衝突事故によるもので、ご夫妻ともに亡くなられたとの事。 ご冥福をお祈りいたします。

一般的にはアカデミー賞(作品賞)受賞作となった米映画「ビューティフル・ライフ」(2001年)でその半生が描かれた事で知られるが、その名を轟かせたのは今や経済学に限らず社会学や生物学など幅広い分野で応用されている「ゲーム理論」の礎を築いた業績だろう。

協力するか裏切るかお互いに分からない複数のプレイヤーが参加しているゲームで、お互いが相手の出方を考えながら選択する出方が均衡するポイント(出方の組み合わせ)があることを立証(「ナッシュ均衡」という)。 

共犯の容疑で捕まった犯罪者2人が別々に取り調べを受けたとして、お互い黙秘していれば短期に釈放される事はお互いに分かっているのに、結局お互い自白して長期禁固刑となってしまう事を論理的に証明した「囚人のジレンマ」は、「お互い最もハッピーになるとわかっている行動を採れず、論理的にアンハッピーとなる行動を選択してしまう」事の立証となり、「市場参加者は常に最も経済合理的(=最もハッピーな状況となるよう)に行動する」というそれまでの経済学の大前提に対する強烈なカウンターパンチとなった。


この考え方は今や個人間や会社vs会社などの組織間、ひいては国家間の交渉事の戦略策定の基礎になっていて、昨今EUあたりと瀬戸際交渉しているギリシャ財務相はゲーム理論の専門家であるらしい。

で、この「相手が協力してくるか裏切ってくるか分からない状況」でその相手と何回も取引(ゲーム)をする場合、果たしてどういう作戦を取るのが最も賢いのか。

この「いつ裏切るか分からない相手との付き合い方」こそゲーム理論の学者達が最重要命題として研究してきたテーマであったが(たぶん)、実はこれには既に解が出ている。

世界の学者達が協力して、いろんな作戦を繰り出す参加者を集めたコンピュータ上の総当たりバトルを開催。 どの作戦(裏切りor協力の組み合わせ)が最も高い勝率を誇るか実験した(らしい)。

結果的に、最も(圧倒的に)高い勝率を誇った作戦は、極めてシンプルなものだった。

1. 最初は協力
2. 次からは、相手が前回にとった作戦(協力or裏切り)をやりかえす。

Tit for tat(しっぺ返し)作戦と言われる上記の作戦は、最初は相手が誰であれ協力し、相手が協力すればそのまま協力、相手が裏切ったら次は裏切り、その相手が反省して協力してきたらまた協力する、というとても単純な作戦で、結局これが最も高い勝率を誇る作戦となった。


実社会には経験則的にこの作戦が適用されているケースがよく見られる。

分かりやすい事例としては反社会勢力等とも呼ばれる組織の行動様式と言われる。
小説で読んだ程度のレベルしか知らないが、彼らはどこかの事務所で喧嘩を売られると、面子を維持する意味もあって徹底的に反撃し、それが繰り返されると抗争に発展する。 両組織のトップは抗争まで発展する手間段階での「手打ち」を模索。 最初に喧嘩をうった側が(お互いの面子を保ちつつ)何らかお詫びを入れて「手打ち」となったら、そこで反撃はストップする(作戦上、協力関係に戻る)。


この論理的な知見を国家関係に適用するとどうなるか。 いつ裏切るか分からない他国とどうつき合うか、いま日本で話題の安全保障にこと知見を応用すると、最強の安全保障戦略は以下のようになる(はずだ)。

1. 最初に攻撃しない(平和主義)
2. 攻撃を受けた場合、徹底的に反撃(専守防衛)
3. 相手が攻撃をやめたら、反撃を停止(専守防衛)


故ジョン・ナッシュ氏が初めて「非協力型ゲーム理論」の論文を起こしたのはプリンストン大学在学中の1949年で、博士号を取得したのはその翌年。  その業績が讃えられノーベル経済学賞を受賞したのは1994年である。

武力行使の放棄と交戦権の否認を宣言した日本国憲法の施行は1947年5月3日。 学生であった故ジョン・ナッシュ氏が論文を提出する2年前である。

図ってか図らずか、戦後日本が採った安全保障戦略は「経済学的には最強」であったことが、時を経てアメリカが生んだ至高の天才とその跡を次ぐ学者達によって立証されたわけである。 


・・・・この酷暑のなか、戦後70年だの安保法制が云々だの、という日本のニュース情報強制流入に脳が侵されてこんなアップになってしまいましたが、カンボジアに戻ったら平常通りに戻ります。。
<(_ _;)>













0 件のコメント:

コメントを投稿